■第91号 2005年9月19日号

■関係者立会い事故車両の検証を実施〜DPF装着大型観光バス炎上事故、責任否定するメーカー、ディーラーと三井物産〜ユーザーと三井物産が激しくやり合う一幕も

 
東京都など1都3県が使用を認可しているDPF装置を装着した大型観光バスが先月16日、千葉県柏市内の常磐自動車道上り線で走行中に突然出火し、乗員乗客44人が避難する事故(既報)が発生したが、出火原因を突き止めるためにこのほど、車両の保有者と車両メーカー、DPF装置を販売した三井物産などの関係者が一斉に、車両整備を請け負っていたメーカー系ディーラーに集まった。焼けただれた事故車両を目前にして、事故の工学鑑定を専門に行う技術士の指示のもとに入念な検証が行われ、集まった関係者はそれぞれの立場で事故原因を推察した。その過程において一時、DPF装置の責任を否定した三井物産と車両保有者が激しく対立する場面が見られるなど、当日は終始緊張感が漂った。正式な鑑定結果が出されるにはまだ時間を要するが、技術士は車両と社外部品であるDPF装置の関係性に着目しているようだ。(安村浩司記者)

  出火した大型観光バスの検証は今月上旬、メーカー系ディーラーの埼玉三菱ふそう自動車販売(さいたま市南区)で行われた。当日は同ディーラーの浦和支店長と技術部の2人のほか、保有者の浦和中央交通梶i岩崎正剛社長、同)から取締役と車両メンテナンス担当の2人、車両メーカーとして三菱ふそうトラック・バスからサービス担当1人と市場調査担当の2人、DPF装置の販売元である三井物産から2人と販売子会社のピュアースから1人、そして鑑定人として距ム技術事務所(茨城県つくば市)から林技術士の計12人が集まった。
  車両の詳しい検証に入る前に、各自の自己紹介やこれから行う必要がある作業などを一同で確認。その中で、保有者の浦和中央交通は「今回の事故で当社は信頼性を失った。事故の原因を示さなければ信頼復活は無理なので、今日はこういう機会を設けた」と主張した。
  これに対してメーカーやディーラーは「原因を追及していきたい」と述べるにとどまったが、三井物産の関係者は何度も本社と連絡を取り合ったうえで「全面的な対応はピュアースが行うが、処理を進める中で我々も同席することになった」と述べ、あくまでもオブザーバーとして出席することを強調した。
  また、鑑定する立場の林技術士は「先日事故車両を一見したところ、エンジンとCRT(三井物産のDPF装置名)の両方の問題が推察できるが、今日は客観的に皆さんと一緒に詳しく検証してみたい」と述べた。
  その後、出席者一同で作業工程を絞り出したところ、当日はワイヤメッシュフィルターの詰り具合を確認するための「DPF装置の脱着と分解」や「ターボチャージャーの脱着」「エンジンオイルのチェック」「エアクリーナー付近の分解」などが行われることとなった。
  さらに、車両検証を行う前に、事故当日の詳しい状況として「突然バッテリーチャージのランプが点灯し、異常を感じたところで走行不能な状態となった。車体後部から煙が見えたので路肩に寄せて停車し、乗客を降ろしているときに出火した」「乗客の話では停止するかなり手前から話声が聞こえないほどの騒音と振動があった」「消防車の到着時には鎮火していた」などに加え、保有者から「事故車両は約1週間前に定期点検と必要な整備を受けている」との説明が告げられた。
  小雨が降り出す中、いよいよ車両の検証が始まった。事故車両は左後部を中心に炎上した形跡が生々しく残っており、事故後はエンジンキーを回してもクランクが回るだけで始動しない状態であるという。決められた作業工程は、埼玉三菱ふそうの富田国博工場長らの手によって着々と進められていった。
  注目された三井物産のDPF装置のフィルターは、意外にもきれいな状態だった。これに林技術士は「見たところ詰っているような感じはない」とし、ピュアースの担当者も「非常にきれいで連続再生している状態」と感想を述べた。このほか、各部品が外されて燃焼状況や被害状況などを各自が確認した。
  だが、林技術士は火災事故とDPF装置の因果関係を、完全に否定してはいない。同氏は事故車両のターボチャージャー付近を支えているステイが外れ落ちていることに着目しており、これについて「金属が溶けるほど高温になった証拠」と指摘。吸気口まで燃焼していることから、ターボチャージャーの後部に取り付けられていた後付け装置のDPF装置と、車両本体とのマッチングの不適切さに原因がある可能性を示唆した。つまり、純正品以外の装置を取り付けたことによって、ターボチャージャーなどに悪影響を及ぼして火災に至った可能性もあるということだ。
  これに対して事故前に点検整備を行った埼玉三菱ふそうは、過去の実例やエアクリーナーが燃焼している点を取り上げたうえで「エアクリーナー側の空気取り入れ口からタバコの火などの火種が入ったのでは」と指摘。だが、この指摘に保有者の浦和中央交通は「当日の車内は全面禁煙だった」として、その可能性を否定した。
  一方、三井物産は「安全性に問題ないと認識している。フィルターが詰っていた場合にしても元から詰っていれば問題だが、大半はユーザー側の責任」とし、「現状では責任があるとは思わない」「さらなる検証を行いたい気持ちは理解できるが、これ以上の検証は当社にとって大きな負担となる」と断言するなど、自社およびピュアースに責任がないことを明言した。
  すると、この発言に浦和中央交通は「販売して取り付けたのだからアフターフォローをすべき」と強く反発。さらに三井物産のデータ捏造事件を引き合いにして「安全性を示す資料を出せるのか。数値を偽造したでたらめな商品を売っておきながら、そんな商品の安全性を簡単に信用できるはずがない」と激しく詰め寄った。こうしたやり取りの末、三井物産は渋々とした表情で今後の検証に協力していくことを承諾した。
  また、三井物産のDPF装置は異常時に警告ランプが点灯する仕組みになっているが、浦和中央交通では「装着した当初から赤色ランプが点灯していた」と述べ、同装置のセンサー不良についても指摘した。これに対して、ピュアース担当者は「装着手順を間違えるとそういうケースがある」としながらも「取り付け代理店には手順をしっかり教育している」と反論した。
  しかし、後日になって浦和中央交通が保有するほかの車両を検証したところ、同型の車両なのにDPF装置の取り付け方に統一性がないことが判明した。これにより、取り付け代理店に装着手順の教育が徹底されていなかったことが明らかとなり、ピュアースの主張は崩れ去った。
  こうして当日の検証は終了した。オイル成分など検査に時間を要するものがあるため、林技術士による最終的な鑑定結果はまだ出されていないが、浦和中央交通が保有するこのほかの車両でも、DPF装置を装着後に後輪の泥除け部分が溶け出すなど、明らかな異常が発生していることには違いない。
  今回の事故で被害者的な立場にあるといえる浦和中央交通では、車両の整備状況に問題がないのに「顧客に対して信頼を失った。すでにゴルフコンペ客などからのキャンセルが入っており、仕事を失う損害を被っている」とし、「このまま泣き寝入りすることだけはしたくない」と、今後も徹底的な原因究明に臨む姿勢を鮮明にしている。
  車両メーカーや点検整備ディーラー、DPF装置の販売側がそれぞれの理由で自社責任を認めていないだけに、今後は林技術士による鑑定結果が待たれるところだ。しかしながら、規制に対応するために大金を拠出して指定装置を購入、装着したユーザーが、今回のようなトラブルに見舞われること自体、ディーゼル車規制に根深い問題点が介在しているといえるのではないだろうか。



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